綜説
銀線状動脈,銅線状動脈についての考察
弓削 經一
1
1京都府立醫科大學
pp.435-441
発行日 1952年6月15日
Published Date 1952/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410201177
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銀線状動脈とか,銅線状動脈とかいえば,眼底所見の表現にしめくくりがついてくる。出血や白斑があろうと無かろうと,此の症状によつて吾々は,惡性高血壓症とか良性高血壓症とかを推定してよい事になつている。然し此の樣な推定は,銀線状動脈とか,銅線状動脈とかにつけられている意味を素直に受取る事によるのであつて,自身で實際に見て見たならば,案外に銀線状動脈とも或は銅線状動脈とも感ぜられない場合があろうと思われる。血壓も高いし,出血や白斑もある事に勢いづけられてあまり確かでなくても此の表現を加える樣な事が無いであろうか。其の證據に,銀線状動脈とはどんなものであるかについての人々の解説は,必ずしも一致していない。即ち銀線状動脈とか銅線状動脈とかの表現は,各人の,見たままの,思い思いの感じによつていて,所謂普遍妥當性に缺けた知識である。同じ名稱によつて,異なるものが指し示されていては,科學は成立たない。此の樣な状態で銀線状動脈の豫後は不良であるなどと決めては(Sallmann18))大變なことになる。
人々が,どの樣な動脈所見を,銀線状とか銅線状と名づけているかを,文献について,古い時代にさかのぼつてしらべてみると,現在の混亂の原因がよくわかる。即ち,初めは,誰も銀線状動脈とか,銅線状動脈とかの固有名詞的な言葉を使つていない。只動脈が白つぽく光つたから銀線の樣にといい,又赤々と輝やいていたから銅線の樣にと形容したにすぎない。
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