特集 眼感染症診療ガイド
コラム 眼感染症への取り組み・いまむかし
バイオハザード・いまむかし
宮永 嘉隆
1
1西葛西井上眼科病院
pp.117
発行日 2003年10月30日
Published Date 2003/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410101430
- 有料閲覧
- 文献概要
1974年夏,私は初めて流行性角結膜炎にかかった。ある公的病院の一人医長で頑張っていた私は,うっとうしい眼をしばたたき,これが「はやり目」か,二度とかかりたくないと思いながら,診療を数日休んでしまった。またその数年前から新しいウイルス性結膜炎がわが国でも流行しはじめていた。それはエンテロ70と名づけられたエンテロウイルスであることがわかった。ちょうどアポロ宇宙船が月に着陸し人間が初めて月面に立った感激にちなんで,この結膜炎はアポロ病と名づけられた。また,その頃からウイルスによる眼感染症が問題となりはじめ,「はやり目」の患者をみたあとは,何となく気をつけるようにしていたものである。一方で,ヘルペス角膜炎の研究が急速に発展してきたのもこの頃であろう。この頃はまた,細胞性免疫の幕開けでもあった。病院のような施設のなかで職員が感染し,また他の疾患で病院に来た患者さんが「はやり目」をもらって帰るという,今思うと当時の病院はバイオハザードの最たるものであった。
1980年代に入り,第3世代セフェム系抗生物質の開発と頃を同じくして,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が少しずつ問題となり,院内感染における新しい感染症として日和見感染(oportunistic infection)が院内感染の主役となり,MRSAががぜんクローズアップされてきた。しかし当時はまだMRSAの分離率は低かった。眼科医もMRSAの存在は知ってはいたが,あまり関心をもつこともなかったような気がする。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.