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はじめに
アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)は,アレルギー反応によって特徴的な慢性皮膚炎症の寛解と増悪を繰り返す疾患である。しばしば血清総IgEの上昇を伴っている。患者はそう痒感が強く,その閾値が低くなっている。そのため患者は皮膚をこすったり掻いたりするので皮膚炎症は悪化し,さらに強いそう痒感を起こす原因となるため悪循環が成立する。遺伝的素因と環境因子の両者がこの疾患の発症と関与している。わが国では最近アトピー性皮膚炎患者が非常に増加して世界でも有数の罹病率となっており,若年者に多い病気だけに社会的な問題となっている。
アトピー性皮膚炎は多くの眼合併症を併発してくることが知られている。アトピー性角結膜炎(atopic keratoconjunctivitis:AKC)はなかでも最も頻度が高く,眼瞼結膜の浮腫と乳頭増殖とともにそう痒と流涙を訴える。アトピー性角結膜炎の重症例ではシールド潰瘍(shield ulcer)やプラーク(epithelial plaque)を生じてくるため,これが瘢痕を残せば恒久的な視力障害につながる。
アトピー白内障・円錐角膜・網膜剝離もアトピー性皮膚炎の合併症としてよく知られているが,これらは眼科手術の対象になることも多く,アトピー性皮膚炎患者の眼科手術が増加すると,後述する術後感染症が非常に大きな問題となってくるのである。
このようなよく知られた眼合併症以外に,アトピー性皮膚炎では感染症を生じやすいことが知られており,それが眼感染症の発症にもつながってくる。本項では特に黄色ブドウ球菌と単純ヘルペスウイルスについて,眼感染症のみならず全身的な観点から解説し,そのような感染を起こしやすい機序についても考察したい。
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