今月の臨床 帝王切開
合併症妊娠と帝王切開
16.糖尿病網膜症
亀山 和子
1
Kazuko Kameyama
1
1東京女子医科大学眼科
pp.686-688
発行日 1992年6月10日
Published Date 1992/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409900888
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糖尿病管理の進歩により,かつては不可能とされていた糖尿病女性の妊娠・出産が可能となって久しい。近年では小児期発症のインスリン依存型糖尿病(IDDM)や若年発症のインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)の妊婦が急速に増加している。妊娠可能となった初期には妊娠中に糖尿病網膜症(以下網膜症)が増悪し人工妊娠中絶や早産を余儀なくされた例も多かった。しかし最近では糖尿病のコントロールが不充分なまま妊娠し,出産までの間に網膜症の増悪する症例に対して網膜光凝固術(光凝固)を施行し,網膜症を鎮静化させ無事に出産する例も多くなっている。そこで分娩形式が問題となってきた。かつては網膜症の合併はすべて帝王切開の適応となっていた時代もあったが,現在ではその適応範囲はかなり限定されてきている1)。
陣痛や出産時の怒責など,腹圧の上昇がどの程度静脈圧の上昇に影響し,更に網膜血管へ影響を及ぼすかは明らかではない。しかし胸腹部の打撲や強い圧迫によって一過性の網膜循環障害が生じ,Purcher網膜症としてあらわれることを考えると,糖尿病により脆弱になっている網膜の血管に腹圧の上昇が何らかの障害を与えるということも想像され得る。すなわち進行した網膜症では虚血による網膜血管床の閉塞や,静脈圧の亢進による脆弱な血管の破綻から出血を起こす危険も考えられる。特に増殖網膜症で新生血管をともなったものではその危険は大きい2)。
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