明日への展開--ヒューマンバイオロジーの視点から 遺伝
Topics
ウイルス性および細胞性発癌遺伝子
渋谷 正史
1
Masabumi Shibuya
1
1東京大学医科学研究所細胞遺伝学研究部
pp.786-788
発行日 1984年10月10日
Published Date 1984/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409207069
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細胞の癌化はどのようなメカニズムで引き起こされるのであろうか。発癌に関するこれまでの研究は主に環境内発癌物質の同定など外界から細胞に作用する物質の解析に大きな成果をおさめてきたが,細胞内で直接癌化に関与する遺伝子やその産物については十分な手がかりが得られていなかった。しかし,近年RNA型腫瘍ウイルスの研究をきっかけとして,細胞の癌化やその維持に密接に関与すると思われる遺伝子(oncogeneまたはonc)が次々と見出されてきている。ここではRNA型腫瘍ウイルスのもつウイルス性発癌遺伝子(v-onc)とv-oncの起源である細胞性発癌遺伝子(c-onc),そして動物の自然発生腫瘍に見られるc-oncの異常,について概略を紹介してみたい。
RNA型腫瘍ウイルスの代表格であるニワトリのラウス肉腫ウイルスは宿主に感染後約3週間で悪性の線維肉腫を発症し,短期間で宿主を腫瘍死させる。また,このウイルスを培養系のニワトリ胎児線維芽細胞に感染させると1〜2日という短時間で細胞のトランスフォーメーションを引き起こす。このことはウイルス自身が発癌に必要十分な能力をもつことを示している。分子生物学的解析から,ラウス肉腫ウイルスはウイルスとしての感染や増殖に必要な3個の遺伝子の他に,肉腫形成に必須な第4の遺伝子v-src (viral sarcoma gene の意)をもつことが明らかとなった(図)。
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