薬の臨床
新しい産科バキュームカップについて
名取 光博
1
Mitsuhiro Natori
1
1都立荒川産院
pp.375-379
発行日 1972年4月10日
Published Date 1972/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409204598
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はじめに
産科技術の修得は鉗子分娩と骨盤位分娩にはじまり,それに終わるといえよう。抗生剤,麻酔法,輸液療法などの進歩で帝王切開術が安全確実な分娩法となつた今日では,ともすれば,産科技術の修得は不必要であるとさえする傾向にある。しかし,いつでも,どこでも安全確実な状況で開腹手術ができるわけではない。また,産科のきわめて動的な,そして急激に変化する分娩経過を開腹手術だけで対応しようとすることに無理がある。
鉗子分娩は経験豊富な産科医であれば,起死回生の劇的成果があげられよう。しかし,産道裂傷,ことに頸管裂傷,腟壁裂傷,恥骨の離解はもとより,きわめて稀ではあるが,子宮破裂さえ経験する。今日のように計画出産や母児の長期予後をも考慮して分娩管理に当らなければならない産科医にとつて,帝王切開術の適応の拡大はやむを得ない。また吸引分娩の普及にも,それなりの必然性がある。児の予後からみても,顔面神経麻痺などの明らかな直接的損傷は別としても,長期追跡調査例の中には,脳性麻痺児を発見する。それは,鉗子手術そのものによる後遺症ではなく,鉗子手術を必要とした,その状態ですでに問題があつたのだと主張してみても,産科医の心には何かわりきれないものがある。したがつて,子宮口全開大前の無理な鉗子はさけるとしても,子宮口全開大以後の分娩経過で,胎児切迫仮死の徴候に対応する急速遂娩術としての鉗子手術はその意味を失つていない。
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