特集 産婦人科診療の進歩
無月經の臨床—治療に關する最近の動向
小林 隆
1
,
唐澤 陽介
1
1東京大學醫學部産科婦人科學教室
pp.829-833
発行日 1953年12月1日
Published Date 1953/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409200943
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I.緒言
各腫婦人科疾患の中にあつて,月經異常は治療の困難なものゝ一つである。概して内分泌臓器に起因する疾患は器質的たると機能的たるとを問わす難治のものが多い。下垂體,甲状腺,卵巣,副腎皮質等の作用が或る程度判明し,各々の分泌するホルモンの抽出精製が可能にたつた今日においても尚内分泌疾患の治療法は確立されていたい。それ程ホルモンと生體との關係は複雑であり微妙なのである。月經異常も例外たり得ない。原發性無月經から出血性メトロパチーに至る迄,月經異常と名付けらるべきものゝ治療法は一つとして滿足に解決されていないと云つて良かろう。
かゝる悲觀的な現状にあるに拘わらず,月經異常は決して尠いものではない。即ち,女子學生,女子勤勞者等を用いて行つた諸家の月經に關する調査統計を見ても明らかなように異常を訴える者が20%内外に達するのである。勿論そのすべてが治療の對象になるとは考えられないが,時にはそれが不妊症の唯一の原因となることもあり得るのである。しかるに無月經,稀發月經の類は直接生命の危険を感ぜしめたり,日常生活に支障を來たしたりすることがない爲に治療に對する熱意が薄れがちである。從つて治療は容易に進展せず,その殆んどを臨床實驗に俟たねばならぬ本疾患の治療法自體にも進歩の機會が少いのである。時には時間と經濟の許す限りと云ったような努力が患者と醫者に要求され,注意深い長期間の治療を經て初めて成果の期待出來る場合も少くない。
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