特集 産婦人科診療の進歩
腟帶下
水野 重光
1
1順天堂大學
pp.813-821
発行日 1953年12月1日
Published Date 1953/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409200941
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I.はしがき
帶下は獨立の疾患ではなく一つの症状に過ぎないが,出血・疾痛と共に婦人科患者主訴の代表的のものであつて,我々の外來では試みに本年7月1ヵ月間の新患に就いて調べると全患者の21.6%(454人中98人)が帶下を主な訴えとして來院している。この帶下感は個人的に甚だ差異があり,從つて訴えの強弱と帶下量の多少とは必ずしも並行しない。帶下の治療に關し現在迄諸家により幾多の業績が發表さそているが,特殊原因による場合を除けばその治療効果の必ずしも良好でないことは日常經驗するところである。帶下感は疾痛などのように甚しい苦痛はないにしても,常時存在する不快感は患者にとつては甚しい苦悩となることが多く,性的不感症の原因ともなり結婚生活に影響することもある。醫師がこれを帶下ぐらいと輕視して治療の必要がないなどと突つ放すのは當を得ていない。然し患者が帶下を言斥えていても何等病變の發見されない場合がいくらもある。生理的の腟内容増量を神經質の婦人は病的帶下と考え必配して醫師を訪れる,斯ういう場合に通院させて無用な治療を加えろことは罪惡である。また病的帶下であつても漫然と効果の上らぬ治療を行つて長く通院させるのも良心的でない。婦人科醫としては原因を速やかに掴み,最も通切な療法によつて出來得る限り速かに患者の苦痛を除去する責任を有する。
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