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はじめに
ゴナドトロピン製剤を使用した排卵誘発や生殖補助医療技術(assisted reproductive technology : ART)の進歩により,不妊治療の成績は飛躍的に向上した.しかし,多胎発生率が1960年代から徐々に上昇しはじめ,1970年代のゴナドトロピン製剤の保険採用,1980年代のARTの導入で急速に上昇した1).
多胎妊娠は母体の合併症や胎児への影響など医学的な問題に加え,本人や家族への精神的,経済的負担,NICUの不足など社会的問題も引き起こすことから,多胎予防として,ARTでは1990年代から移植胚数の制限が提唱され,本邦においても2008年から日本産科婦人科学会が原則,移植胚数を1個にすべきと会告を出している.しかし,排卵誘発剤を併用したタイミング治療や人工授精では,排卵数をコントロールすることは難しい場合があり,多胎の問題はいまだ解決されてはいないといえる.とくに,多嚢胞性卵巣症候群(policystic ovarian syndrome : PCOS)では排卵誘発に対して過剰反応しやすく,単一排卵が困難な場合があり,多胎のリスク要因となっている.
一般的にPCOSの不妊治療は,肥満を伴う場合はダイエット指導からはじまり,薬物療法としてはクロミフェンが第一選択薬となる.インスリン抵抗性のPCOSにはメトホルミンを併用することで排卵が得られることもあるが,クロミフェンやメトホルミン無効症例に対してはゴナドトロピン製剤による排卵誘発か,腹腔鏡下卵巣多孔術(laparoscopic ovarian drilling : LOD)が考慮される.それでも妊娠に至らない場合や多排卵を繰り返す例ではARTに移行せざるを得ない2).
本稿ではPCOSにおける各排卵誘発方法の多胎リスクと多胎を減少させるための工夫を,文献的考察をふまえて概説する.
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