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[1]背 景
抗リン脂質抗体には,多種のリン脂質に対する抗体が含まれており,それらは血小板や血管内皮細胞を標的として,血栓症や流産,胎児死亡などを引き起こすと考えられている.したがって,血栓予防の目的で抗血小板作用を期待した低用量アスピリン療法が,抗リン脂質抗体症候群(anti─phospholipid antibody syndrome:APS)の治療に用いられてきた.抗リン脂質抗体と妊娠初期流産との関連については関連ありと考えられているが,低用量アスピリン(low dose aspirin:LDA)単独治療の有効性については否定的な意見が優勢である.これまでの検討において,現在提唱されているAPSの診断基準が満たされているものは少ないため,血栓症や流・死産歴などを考慮に入れて細分化したグループを対象とした個別的治療が提唱されている.まず,アスピリン療法の初期流産予防効果を検討する対象となるのは,必然的にワーファリンなどによる抗凝固療法の対象となる血栓症既往や全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)のように確立された別の治療法の対象となる例を除外した症例であろう.表11~8)に血栓症の既往やSLEがなく,反復する妊娠初期流産,または最低1回の胎児死亡をもつ女性における無作為対照試験のメタアナリシス結果を示す.無治療とLDAとを比較した研究はTulppalaら1)とPattisonら2)の研究であるが,前者はLDA群と無治療群ともに生産率は17%と低く,LDAの効果は認められなかったとする一方,後者では無治療群とLDA群ともに80~85%と高い生産率を示し,LDAの有効性を検討するまでもなく,これらの比較的リスクの低い群では治療の必要性がないことを示唆している.その他の検討は,LDAとLDA+ヘパリン療法との比較であり,Raiら6),Kutteh 8)はLDA単独での生産率が40%程度と低いのに対し,ヘパリンを併用することにより,それぞれ71%,80%への改善を認めたとしている.
それぞれの検討において,症例数,APSの診断基準,使用された薬剤の投与量などの差があるためか,無治療でも予後の良好な例と,予後不良例とが混在していることが推察される.
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