今月の臨床 妊婦の感染症
妊婦の感染─胎児への影響と対策
9. 水痘
永井 立平
1
,
林 和俊
1
,
深谷 孝夫
1
1高知大学医学部産科婦人科
pp.862-867
発行日 2008年6月10日
Published Date 2008/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101798
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はじめに
水痘は水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus : VZV)感染により発症する.VZVはα亜科に属するヘルペスウイルスで,初感染によって水痘を発症し,治癒とともに知覚神経に沿って三叉神経節や脊髄後根の知覚神経節に潜伏感染する.その後,宿主の細胞性免疫低下に伴い再活性化し,皮膚の神経分布領域に帯状疱疹を発症する.わが国における水痘罹患は5歳までに80%が,9歳以上では90%がVZV抗体を保有していると考えられている1).逆にいうと,約10%の成人は抗体を保有していないことになり,現在の水痘の流行状況からすると,抗体を持たない母親が増える可能性がある.しかし,浅野2)の報告では21~38歳女性のVZV抗体保有率は98.0~99.1%であり,わが国における妊婦水痘の頻度は非常に低いとしている.世界的には,妊娠中の水痘罹患率については1/2,000との報告がある3, 4)が,実際にはもう少し多いとのみかたが有力である.周産期水痘の最も注意すべき点は,母体の水痘肺炎合併であり,重症化した際は適切な治療が予後を左右する.また,罹患時期によっては児の予後を左右すること,また管理についても罹患と分娩までの期間によりその対応が異なるといった特殊性を有し,産科医としては本疾患に対しての慎重な配慮と適切な対応を行う必要がある.
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