- 有料閲覧
- 文献概要
1 診療の概説
尿失禁とは,本人の意思によらず,尿をしたくないときや場所で尿が漏れ出てしまうことをいう.尿失禁の症状や原因により5つに分けられ,治療法も異なってくるため,正確な診断が必要とされる.(1)腹圧性尿失禁,(2)切迫性尿失禁,(3)混合性尿失禁,(4)溢流性尿失禁,(5)機能性尿失禁に分けられるが,女性に多くみられるのは腹圧性尿失禁である.
(1)腹圧性尿失禁は,咳,くしゃみをしたとき,急に立ち上がったとき,重たいものを持ち上げるときなどお腹に力が加わったときに尿が漏れてしまうのが特徴である.女性の尿失禁の7割を占めるといわれている.女性では骨盤底筋群が,加齢,肥満,出産により弛緩してしまうことが原因とされている.(2)切迫性尿失禁は,切迫した強い尿意が現れ,トイレのドアに手をかけたところで尿が漏れてしまうなど,トイレまで耐えることができないのが特徴である.男女問わず,60歳以降の高齢者に多くみられる.膀胱は交感神経により収縮するが,大脳皮質による交感神経の抑制に異常が生じると,膀胱が無抑制に収縮し,尿道括約筋が弛緩してしまう.脳梗塞,パーキンソン病,脊髄疾患などが合併していることがある.(3)混合性尿失禁は,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁の両方の症状を有するものである.(4)溢流性尿失禁は,排尿が前提にあり,膀胱内に尿が充満してきて,最終的に尿がちょろちょろと漏れ出てくるのが特徴である.男性に多くみられるもので,前立腺肥大症や前立腺癌を原因とする.女性でも子宮癌手術や放射線治療後などに発症する.(5)機能性尿失禁は膀胱や尿道に明らかな異常がないのに,精神や身体運動の機能障害が原因で生じる.老人性痴呆のほうが適切な状況判断ができず,ベッドの中で漏らしてしまうようなケースがこれに該当する.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.