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はじめに
2005年の合計特殊出生率は1.25であったことが2006年6月1日に発表され,社会保障・人口問題研究所から発表された日本の将来推計人口の中位推計の結果1)が,いよいよ信じ難いものとなりつつある(表1).この推計は2000年の実績値に基づくものであるから,遅くとも2007年早々には発表されるはずの2005年の実績値に基づいて計算される次版の数値が特に注目されるわけである.
しかし,少子化問題の本質は,この出生率にあるわけではない.なぜなら出生率は結果であり,その構造の背景にある重大な要因は,先進諸国において全世界的にみられる平均初婚年齢および初産年齢の上昇である.日本ではこれらに,さらに未婚率の上昇という要因が加わる(ちなみに日本では1980年に20から34歳の男女未婚率はそれぞれ52.4%と33.3%であったが,わずか20年後の2000年では68.2%と55.5%となった).なぜなら,日本では出生する子のうち嫡出でない子の割合が,近年,多少は上昇したとはいうものの,2004年で1.99%と異例に低く(表2),事実上は未婚=子供なしという姿を呈する唯一の先進国だからである.
すなわち,不妊治療の現場ではこのような状況を冷静に判断する必要がある.
不妊治療のストラテジーを考慮する場合,例えば「もう少し早く治療を開始していれば」などという筆者を含む不妊専門臨床家がしばしば,ためらいながらも思いがちな“ぼやき”は,まさにまったく無意味なことである.日本の平均初産年齢はまもなく30歳になろうとしているが,スウェーデンの首都ストックホルム中心部の平均初産年齢は,すでに36歳を超えている.したがって,まだまだ今後,日本女性の初産年齢が上昇することは確実である.不妊治療が開始される年齢は,平均初産年齢と当然並行して上昇するわけであるから,治療者にとって,女性のエイジングに的確に対応することが,最大の課題であることは間違いないのである.
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