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はじめに
わが国の人工妊娠中絶率は1960年以来ずっと減少を続けているが,十代では他の年代に反して,図1に示すように1975年から増加しはじめた.そして1982年から1995年にかけては上昇傾向が減ってほぼ横這いに推移したが,しかし1996年から以前にもまして顕著な第2の増加が現れ,2001年には,15歳以上20歳未満の女子人口1,000対12.6に達した.これは15歳以上20歳未満の女性が,性交経験のない者も含めておよそ80人に1人が毎年人工妊娠中絶を受けていることを意味する1).
これとまったく並行して,「東京都の児童・生徒の性に関する調査報告」2)における高校3年生徒の性交経験率の年次推移(図2)に見るように,多くの高校生や大学生での調査で性交経験率の増加が示されているし,またクラミジアなど性感染症の増加も指摘されている3).このような現状から見れば,わが国では既に1980年から種々の思春期保健活動が行われているのにもかかわらず,誠に残念ながらそれらの対策はまだ効果的な結果を得ているとはいえない.
これには,思春期の若者たちが必要としている性教育を行い,自己尊重の一環として自分の健康を守ることの大切さを自覚させ,そのための単なる知識の伝達ではなく,意思決定や行動変容に必要なスキルの習得などを目指す「包括的セクシュアリテイ教育」4)が広く行われていないことや,若者たちが「性の健康」保持に必要な保健サービスを十分に利用できないでいることが主な原因になっていると思われる1).若年者の人工妊娠中絶と避妊に関する産婦人科診療に当たっても,若者を快く受け容れて,安心させ,必要な情報やサービスを提供して,適切な処置や助言・教育を行い,とくに心のケアを心がけることが大切である.
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