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1 診療の概説
卵巣腫瘍の診断については,まず内診で卵巣腫大を指摘し,超音波検査で腫瘍の大きさや性状を調べるという手順が一般的である.そして卵巣腫瘍であると診断されれば,悪性所見の有無や腫瘍の組織型を推定するために造影CT検査や造影MRI検査を行い,またその際に腫瘍マーカーの測定も行う.
超音波による卵巣腫瘍の診断で,Steinkampfら1)は,経腟超音波検査で確認された片側の卵巣囊腫について,腫瘍内に壁在結節や乳頭状増殖を認めない腫瘍をGroup 1,認めるものをGroup 2としたところ,Group 1では660例中,境界悪性を含めた悪性腫瘍を7例(1.0%)に認め,Group 2のものでは644例中24例(3.7%)に認めたとし,超音波診断のみでは良・悪性の鑑別には十分ではないことを示唆している.
卵巣腫瘍が径5cmを超える場合は悪性の頻度が高まるため,超音波検査に加え造影CT検査,造影MRI検査がよく行われる.CTとMRIの比較では卵巣腫瘍と子宮筋腫や卵管水腫との鑑別がつけやすく,嚢胞性奇形腫や内膜症性囊胞など腫瘍の組織推定ができることから,MRIが好まれる.すなわち,MRI検査で囊胞性病変を示し,T1強調画像で高信号を呈する場合には脂肪もしくは出血であることが多く,脂肪抑制T1強調画像で信号が抑制されれば脂肪であり成熟囊胞性奇形腫を考える.また脂肪抑制T1強調画像で高信号を示せば出血であり,他の臨床所見が一致すれば子宮内膜症性嚢胞であると考えられる.造影MRI検査で囊胞性腫瘤に壁在結節や乳頭状増殖部分が認められ,その増殖部分が造影されている場合には悪性を強く疑う.MRI検査の卵巣癌の正診率は78~95%と報告されており,造影CT検査の正診率もほぼこれと同程度である2).
CTやMRI検査で明らかな悪性像が認められず,おそらく良性腫瘍であると考えられた場合でも,腫瘍径が6~7 cm以上であれば茎捻転の起こる可能性が5~7%程度,また破裂の可能性が3%前後と報告されている3, 4).卵巣腫瘍の茎捻転はいうまでもなく婦人科緊急疾患の1つであり,迅速な処置がとられない場合には重篤な転帰をとる.特に成熟囊胞性奇形腫(皮様嚢腫)の場合には破裂すると強い化学性腹膜炎を起こすこと,また悪性転化率が1%程度であることがよく知られている.茎捻転,破裂の可能性,将来の悪性転化の可能性,これに加えて画像診断上ほぼ良性と診断されても悪性が上述のごとく1%程度あることから,良性腫瘍であると考えられても手術を勧めるべきである.
ただし,卵巣腫瘍が単房性で腫瘍内容物も漿液性と考えられる場合には,閉経前の女性であれば機能性囊胞(functional cyst)の可能性を除外することが必要である.Ekerhovdら5)は閉経前の片側の卵巣腫瘍により手術した927症例中181例(20%)が機能性囊胞であったと報告しており,特に生殖年齢で経口避妊薬を内服しておらず,腫瘍が片側性,囊胞性で可動性良好であり,腫瘍径が10cmを超えない際には機能性嚢胞を疑う必要がある.機能性嚢胞が疑われた場合は1~2か月後に腫瘍サイズを再検するが,ゴナドトロピンを抑制するために経口避妊薬を6週間程度投与し,再検すると鑑別が容易である.
腫瘍マーカーは,一部の組織型では術前診断および治療効果判定,予後推定の点で非常に有用である.卵巣胚細胞性腫瘍(未分化胚細胞腫,内胚葉洞腫瘍,胎芽性癌,未熟奇形腫)および卵巣性索腫瘍(セルトリ細胞腫,ライディク細胞腫)でAFP,特に絨毛性疾患にはHCGが高い陽性率を示す.上皮性卵巣腫瘍で最も高頻度に用いられる腫瘍マーカーとしては,一般にCA125,CA19―9,CA72―3,CEAなどであるが,いずれも良・悪性の診断の決め手にはならない.例えば,上皮性卵巣腫瘍で最もよく用いられるCA125の卵巣癌での特異性,感受性はそれぞれ35%,80%である.
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