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はじめに
ホルモン補充療法(HRT)は,欧米では骨粗鬆症や高脂血症の予防法として評価され,骨折や冠動脈疾患の発生抑制に多くの女性がその恩恵に浴してきたとされる.骨粗鬆症の予防,治療,あるいは骨折の予防効果は古くから認められており,ビスフォスフォネートなどの強力な骨吸収阻害剤が登場してからも世界で広く用いられている1~4).一方,冠動脈疾患や血栓症へのHRTの評価に関しての研究成績はいまだに一定のコンセンサスに至っていない.HRTのthrombolytic effectによる血栓形成の予防効果5),心筋梗塞による閉経後女性の死亡率の減少への効果6~8)などが報告されている反面, その有効性を否定する9, 10),あるいは疑問を投げかける報告も多い11~13).したがって,この数年は,ホルモン補充療法の選択や長期継続の決定は,個々の症例に対して個別的なリスクを勘案しながら慎重に実施すべきであるという考え方がなされるようになってきた11, 14~16).
HRTは,わが国では主にエストロゲン失調急性障害の治療として用いられており,特にのぼせや発汗過多といった,いわゆる更年期障害の代表的な身体症状の緩和には効果があることが実証されている14, 17).HRTにより精神的,身体的な不調が取り除かれれば,女性の閉経以後の約30年の人生を充実させるためのスタートラインに爽やかに着くことができ,そのquality of lifeの向上を期待できる14).
一方,閉経後のエストロゲン失調亜急性障害としての皮膚の萎縮も女性にとって看過できない問題であるとされる.皮膚の膠原線維の粗雑化や水分保持能力の減少により真皮の脆弱化が起こり,「しわ」がきざまれる18).卵巣摘出女性においてHRTが皮膚の膠原線維量を有意に増加させることは,Castero―Brancoら19)により報告されている(図1).また日本人の自然閉経女性における落合ら20)の研究では,前腕内側部の皮膚の吸引刺激からの回復率,角質層の水分含有量および皮脂量がHRT実施群において非実施群に比べて有意に高いことが報告された(図2).すなわち,HRTは閉経によるエストロゲン失調でもたらされた乾燥,菲薄,弾力低下皮膚を回復させることがわかる.このようなHRTの皮膚への効果も閉経女性のその後のquality of lifeの向上に寄与することは異論のないところであり,HRTは閉経~老年期女性のさまざまな身体機能の保持あるいは回復には必要不可欠であるという認識がなされるようになっていた.
このような状況の中,本年7月に米国WHI研究者のグループは,16,608名の閉経後女性を対象に8.5年間にわたるエストロゲン・プロゲスチン併用によるホルモン補充療法のrandomized controlled primary prevention trialを浸潤性乳がんが当初に設定していたリスクを超えた(estimated hazard ratio : 1.26)と判断して5.2年で中止すると発表した21).
本稿では,閉経後の皮膚の衰えに対して,HRTを再考し,代替治療について解説したい.
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