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はじめに
子宮内膜症の症状のなかで最も治療を期待されるのが月経痛である.初期には月経時の痛みを主徴候とするが,進行すると月経時以外にも腰痛や下腹部痛が出現し,その痛みは性成熟期女性のquality of life(QOL)を著しく損なう.月経痛や骨盤痛は,必ずしも病巣の拡大や進展と一致せず,子宮内膜症そのものの治療とは独立した痛みの治療が要求される場合もある1).子宮腺筋症の41.2%,子宮内膜症の51.9%に強い月経痛が認められ,痛みへの対応が治療の主軸となることがわかる1).
漢方医学の症候論において,「月経痛」や「月経困難症」は一般的には独立した症状としては扱われず,当然,子宮内膜症という病名に対する処方も存在しない.したがって漢方治療は随証による.駆瘀血生薬や生薬の芍薬,附子を含む方剤が痛みを主体とする疾患の治療に用いられている.また,痛みの基本病態には,主に「瘀血」と「水毒」が関与しているといえるため「利水生薬」も高い頻度で用いられている.もちろん個々の症例によってその病態はさまざまであり,漢方医療の基盤としての個別的な対応が必要である2).子宮内膜症の漢方治療は,標症としての月経痛や月経過多を代表とする月経困難症と本症の内膜症病巣(腫瘤,癒着)の両方の治療を目指しており,随証を基本としたうえで,月経困難症に焦点を当てながら病気そのものの進展を抑止し,さらに妊孕能を低下させないという方向性となる.
具体的な治療方剤として,桂枝茯苓丸や当帰芍薬散などの駆瘀血剤,あるいは攣急抑止として芍薬甘草湯が,その症状緩和のために比較的高い頻度で処方されているが,近年,GnRH agonistによる治療時の副作用緩和や子宮内膜症の再燃抑止の目的においても試みられるようになっている3, 4).
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