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成人病胎児期起源説のバーカー理論
最近の周産期領域における最大のトピックスの1つとして成人病胎児期起源説(fetal origin of adult disease : FOAD)が挙げられる.イギリスの高名な公衆衛生学者であるDavid Barkerが,15年ほど前にイングランド南東部のHertfordshire地方において大規模な後向きコホート研究1)を行ったところ,驚くべき結果を得た.成人病あるいは生活習慣病と称される高血圧や糖尿病,虚血性心疾患などの発症が,実はその人が生まれたときの体重と密接に関係があるというのである.すなわち,胎児発育遅延(FGR)あるいは低出生体重で生まれた児は,成人後の高血圧や動脈硬化,耐糖能異常のリスクが高いという疫学的データから,生活習慣病の起源を胎児期の低酸素,低栄養状態に求める仮説である.この事実はその後の多くの大規模研究によって追認され,今では「バーカー理論」という名で呼ばれるようになった.
生活習慣病に関する従来の疫学的研究の多くは,発症に関する生活習慣や環境を出生以後のものと認識してきた.生活習慣病は成人後の生活習慣により生じると信じられているが,同じような生活をしている人が同じような病気を発症するかといえば否定的である.すなわち,成人後の疾病発現リスクは出生時にはすでに決まっている可能性がある.生活習慣病の発症起源を出生前に求める考え方は一見突飛なものに思えるが,発達過程における諸臓器の形成については子宮内での環境が重要な規定因子といえるため,子宮内環境から受けた影響が出生後の生活環境と相俟って生活習慣病の発症へとつながると考えても決して不自然ではないだろう.
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