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はじめに
腹式広汎子宮全摘術は,わが国においては岡林術式を原点として,安全性・確実性に関する改良の努力が積み重ねられてきた.これは根治性の改善を目指したものではなく,いかに術中(と一部術後)合併症を減らすかという努力にほかならない.この古くて新しい問題は,昨年の日本産科婦人科学会学術集会シンポジウム「安全性および確実性の向上を目指した婦人科手術の工夫」として取り上げられ,その内容と歴史的なレビューを座長として筆者がまとめているので,それを参照していただきたい1).
しかし,病変の存在する子宮頸部からできるだけ遠位で切断して子宮を摘出する本手術は,婦人科手術のなかでは最も術中合併症に気をつけなければならない手術である.ところが,本邦では上記のような術中合併症の予防策とその対策に関する論文・著書は数多くみられるが,実際の術中合併症の発生頻度に言及している論文は意外と少ない.それは,施設(教育病院か専門病院かあるいは一般病院か),術者(経験,技量),患者(病変の進行度)の3つの要素が複雑に関与しており一概にその頻度を論じられないことと,合併症というネガティブなデータは公表しにくいというパブリケーションバイアスが考えられる.また,子宮がん検診の普及により早期癌の比率が高まり,広汎子宮全摘術の対象症例が少なくなっていることも無視できない.
筆者が現在の施設に赴任して4年になろうとするが,現時点ですでに100例以上(101例)の広汎子宮全摘術が当科で施行され,この手術に関しては原則として筆者ら2名のどちらかが参加するようにしてきた.そこで本稿では,術中合併症の頻度に焦点を絞り,欧米の文献的な術中合併症の頻度2)とともに当科での頻度も合わせて報告し(表1),その予防法と対策のポイントを整理してみたい.
なお,広汎子宮全摘術の術中合併症はリンパ節郭清と子宮全摘に伴うものの2つに分けて論じられるべきであるが,リンパ節郭清は別項に譲る.
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