認定医講座
関節軟骨の生理学,生化学
安井 夏生
1
1防衛医科大学校整形外科
pp.89-96
発行日 1989年1月25日
Published Date 1989/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408908018
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はじめに
関節軟骨は弾力性と圧縮性に富む結合組織で,滑膜関節において骨の表面をおおい関節の滑動性をよくし,またshock absorberの役目を果たしている.関節軟骨は軟骨細胞とそれを取り囲む細胞間マトリックスから成るが,組織内に血管や神経を持たない.他の組織に比較すると細胞密度はきわめて低く,成人関節軟骨の場合1mm3中に存在する細胞数はわずか3×104個である.これは肝臓や腎臓の十分の一以下にあたる.細胞と細胞の間を埋める軟骨マトリックスはきわめて含水性に富み,その組成の約70%が水分である.水や低分子物質はマトリックス内を自由に通過すると考えられており,軟骨細胞は関節液よりのdiffusionにより栄養を受けるとされる.血管をもたない関節軟骨の組織内酸素分圧は低く,細胞は主として嫌気的解糖によりエネルギー産生を行なう.関節軟骨は重力がかかるとちょうどスポンジのように水をはじきだし厚さを減ずるが,重力が除かれると再び水を吸って速やかに元の形を取り戻す.関節軟骨の厚さは部位により異なり0.8-6.0mm程度であるが,最大荷重時には元の約30%にまで厚さの減少を起こしうることが知られている.適当な荷重と関節運動は関節軟骨の細胞外液交換を促進し,その栄養を保つのに役立っている.関節が長期間固定されたり,軟骨が変性してマトリックスの含水性や弾力性が低下したりすると当然軟骨細胞の栄養は悪くなる.
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