学会印象記
アメリカ整形外科学会印象記
加藤 文雄
1,2
,
二宮 節夫
1ハーバード大学整形外科
2東京大学整形外科
pp.128-130
発行日 1970年2月25日
Published Date 1970/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408904366
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限界に来たアメリカの医学研究,医療制度
このところアメリカの医学界をめぐる雲行きはあまり穏やかでない.その理由のひとつは,インフレ抑制を至上命令とするニクソン政府が,医学研究費を20パーセントもカットする暴挙にでたためである.公立大学のみならず私立大学でも,その大部分をNIHを通して国費にあおいでいる現状だから,こんどの予算切捨ては研究者たちに手痛いパンチをあたえた.もちろん一斉に抗議の声があがつたが,時の権力の前にははかない蚊の叫びでしかないようだ.この調子でこれからも年々予算をけずられてゆくことになると,アメリカの医学研究の黄金時代はもうおしまいで,暗黒の時代に逆もどりするのではないかと嘆く連中も少なくない.他人の不幸をみてよろこぶなぞ,はしたないわざであろうが,日本がアメリカに追いつき追いこそうとするなら今のうちである.
いまひとつの問題は,「代金ひきかえのサービス」というモットーのもと,資本主義の自由を謳歌してきたアメリカの医療制度が,いよいよゆきづまつてきたことだ.たとえば一日の入院料だけをみても,1966年に48ドルだつたのが,1969年は68ドルにふえ,数年のうちには100ドルに達するだろうといわれる.これは大きな社会問題で,いかに豊かなアメリカといえども,途方もなく膨張する医療費を賄いきれないことが明らかになつてきたのだ.医療の分布のかたよりもひどく,医者の三分の二は人口の半分にみたない富裕階層の治療に専念しているのだから,あとの貧乏人はとても救われない.
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