連載 整形外科philosophy・8
医学・医療の進化とインフォームド・コンセント
辻 陽雄
1
1富山医科薬科大学医学部
pp.1321-1323
発行日 1997年11月25日
Published Date 1997/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408902306
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●医学思想の進化の中のエアポケット
古代における原初的な医学の思想はいまも地球上の所々に存在するのだが,それは宗教的・魔術的医学,呪術であり,超自然的存在者としての神を認める「信」の世界である.理性的「信」の世界は現代の医学・医療においても無縁無用のものではない.
ギリシャ時代の医学はヒポクラテス医学に影響されつつ自然哲学と結合して,「病気を治すのは自然の力による」との思想であり,後のローマ医学に至ると身体の機能や病気も物質の素としてのアトムの配列と運動の異常により決定されるという生体物質主義的機械論へと変わっていく.そして旧来の液体病理から固体病理へと変わる中で,ガレノス(130-201)は血液を中心とする液体成分と固体成分の調和という視点から考究し,病気をより局所的に分析的に捉えようとする近世西洋医学の礎を築いたのである.それから約1400~1500年後,ベザリウスの人体病理解剖,ハーヴェイの体温計や脈拍計の発明,さらに筋運動に機械原理を導入するなど本格的な人体機械論からする技術へと進化していく.そしてその後,約350年経った19世紀末頃までの間に,多くの著明な学者によって近代生理学,生化学,病理学が科学として分科し,ウィルヒョウの細胞病理学に代表される物質的世界観を築きつつ20世紀を迎えたわけである.
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