ついである記・13
日没する国Morocco
山室 隆夫
1,2
1京都大学
2国際整形災害外科学会
pp.698-699
発行日 1997年6月25日
Published Date 1997/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408902190
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●サハラ砂漠北限の町へ
アフリカ大陸の北西に位置する国モロッコのマラケシュ(Marrakesh)へ行くために私と家内とが乗り込んだパリ発の飛行機はピレネー山脈を越えてスペインの上空を飛び,やがてジブラルタル海峡にさしかかった.この海峡を越えるともうアフリカ大陸だ.海峡をはさんでスペインの対岸に位置するタンジール(Tangier)という町にいったん着陸するために飛行機が高度を下げると,海峡に続く太西洋岸が美しい姿を見せはじめ,家々の真白い壁が陽に映えて眩しいばかりである.それは,1994年4月上旬であった.パリではまだコートを着ている霧の季節であったのに,地中海を越えると急に大気が透明となり,すべての物の色彩が一段と鮮明度を増したように思われた.
タンジールを発って3時間程でマラケシュの空港に着いた.そこでモロッコの友人が私達を出迎えてくれる手筈になっていたのだが,どうした手違いからか,1時間待っても現われない.仕方なく,私達はタクシーに乗ろうとしたが,言葉が全く通じない上にタクシーにはメーターも付いていない.後で知ったことだが,この国ではタクシーだけでなく,あらゆる商品が売り手と買い手の交渉によってその場で値段がつけられるのが普通なのだそうだ.医療費ですら患者と医者の交渉によって値段が決められるので,貧乏人はまともな医療を受けることは出来ないという.
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