視座
「1+1=2」以上の治療成果を挙げるには……
富田 勝郎
1
1金沢大学整形外科
pp.999-1000
発行日 1996年9月25日
Published Date 1996/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408901984
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日本の整形外科は年々進歩し,現在では欧米としっかり肩を並べるまでになってきている.私も自分なりに腕のい整形外科医になろうと努めてきたし,また次々と入局してくる若いドクター達にも,一日もはやく腕を磨き一人前の立派な医師になるよう指導してきた.学会といわず医局といわず,病棟,外来でのカンファレンスなど,いろいろな機会を捉えて治療のポイント,手術のコツなどを討論してきたし,若いドクター達もまたたく間にそれらを吸収,体得して鮮やかなメスさばきをみせてくれるようになってきている.しかしふとしたとき,本当にこれで十分なのだろうか,何かもうひとつ大切なことを忘れてはいないかと自問していることがある.
私の母(といってももうすぐ90歳になるが)が昨年の春,重症の肺炎で危篤状態に陥った.熟練した内科医,看護婦さんたちが吸引,タッピングなどで痰や誤嚥物の除去に務めてくださった.しかしすでに食べることはおろか,自力で痰を喀出することすらできないまでに体力が消耗し切っており,精も根も尽き果てた本人は「もう十分に人生を生きてきたんだから,もうここいらで楽にしてくれ」と訴えた.が,「まだまだ長生きしてもらわないといかん.今はそれが親の務めなんだよ」と励まし続けた,老母はこの「親の務め」という言葉を聞くたびに,もうろうとした目をカッと見開いて再び全力をふりしぼって痰をだした.その甲斐あってか奇跡的に回復した.
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