Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
1961年にJacksonら1)が,その後1965年にCoventry2)は変形性膝関節症(膝OA)患者に対して,脛骨近位において外側に底辺を持つ楔状骨片を切り取り,内反変形膝を外反に矯正することが疼痛を軽減させる有効な方法であると報告した(図1).脛骨近位で矯正骨切りを行うこれら2つの術式は,一見類似した方法のようにみえるが,実は大きな違いがある.前者は膝蓋腱の脛骨粗面付着部より遠位で骨切りを行うが,後者は付着部より近位で骨切りを行う方法である.膝蓋腱付着部より近位で骨切りを行うと,大腿四頭筋の収縮力が膝蓋腱を介して骨切り部に直接作用し,骨接合面には圧迫力が生じて骨癒合を促進する効果がある.このCoventryの方法が現在の高位脛骨骨切り術(high tibial osteotomy:HTO)である.一方,Jacksonらの方法は,脛骨粗面下骨切り術であり,HTOとは区別すべきである.
Coventryの方法は,脛骨近位で外側から楔状の骨片を切除して外側を縮めるclosed wedge HTO(CWHTO)である.人工膝関節置換術(TKA)はまだその成績が安定していなかった時代でもあり,HTOは膝OA患者の疼痛を軽減する手術として広まった.本邦では1970年から1990年代にかけて諸先輩方3-6)の仕事によりHTOの手術件数は多少なりとも増えた時代があった.しかしCWHTOでは,腓骨の骨切りまたは骨切除を施行しなければならず,時として腓骨神経麻痺や腓骨周囲の静脈叢からの出血などによるコンパートメント症候群などが発生することがある.また強度に優れた内固定材料がなく,骨癒合まで全荷重歩行は許可されなかったため,長期間の入院治療が必要であった(2〜3カ月間).さらに手術手技が比較的難しかったこと,術後の骨癒合までの期間中,アライメントの保持が容易ではないことなどの理由により,広くは普及しなかった.一方,TKAは海外の大きな資本をもとにインプラントの大幅な改良がなされ,治療成績も向上し,近年ではその数は激増した.
1972年にフランスのDebeyreら7)は脛骨近位部で内側から外側に向けて骨切りを行い,内側の骨切り部を開大し自家骨を移植する方法を考案した.これがopen wedge HTO(OWHTO)の始まりである.彼らは260人にこの手術を行い,術後の疼痛がほとんどの例で軽減したが,関節の不安定性がある例では成績がよくなかったとフランス語で報告した.その後1987年に彼の弟子のHernigouら8)がまとまった患者数の成績を英語論文で著して以来,術中や術後の合併症が少ないという観点から,欧米ではHTOが再び見直されるようになった(図2).この方法では腓骨切除の必要がなく,手術中にアライメントを容易に調節可能であるなどCWHTOにはない大きな利点がある.さらにアプローチは内側からであり,前脛骨筋などの足関節背屈筋群の剥離を必要としないため,術後の足関節背屈筋力の低下が起こりにくい.そのためヨーロッパでは2000年代に入り,ドイツやフランスなどを中心にCWHTOからOWHTOへと積極的に転換し始めた.Pudduら9)は骨切り部に対するスペーサ機構を持つプレートを開発し,この手術法の普及に貢献した.
しかし,術後の合併症を減らし早期荷重を可能とするためには,さらに固定力に優れた内固定材の開発が必要であった.Lobenhoffer10)やStaubliら11)AO財団のKnee Groupを中心に,より固定力の強いプレートの開発が行われた.その結果誕生したのがlocking compression screw機構を持ったTomoFix(Depuy Synthes Co.)である.これにより骨切り部の固定力が飛躍的に高まったことで,HTOが再び見直される時代が幕を開けた.さらに筆者らは自家骨より初期強度に優れ,将来骨に吸収置換される人工骨オスフェリオン(osferion)60(オリンパステルモバイオマテリアル社)を使用することで,手術後早期から全荷重歩行が可能となるような術式を発展させた.その結果,両側同日手術も安全に行うことが可能となった12,13).
本稿ではHTOの進歩を最新のOWHTO,hybrid closed wedge HTO(Hybrid HTO),そしてdouble level osteotomy(DLO)の順に解説する.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.