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早いもので疫学の世界に飛び込んでからもう20年である.大学を卒業後,田舎の総合病院で内科医としてトレーニングを詰んでいた頃は,まさか自分が予防医学の世界に身を投じるとは思いもしなかった.臨床医学は日々変化に富み新しい発見に満ちており,技術の習得も――なにしろゼロからのスタートだから――上達しているのが実感でき,充実感に満ちた日々を送っていたからである.臨床を5年間経験した後,疫学の門を叩いたときは,いささか後ろ髪を引かれる気持ちもあった.しかしあにはからんや,こちらの世界も日々変化に富み,新しい発見に満ちていたのである.疫学は興味の尽きるところがなく,毎日が充実感に満ちている.医学というサイエンスの奥の深さに驚くとともに,好きな研究を生業とできる幸福に感謝の日々である.
私の疫学研究のテーマは一貫して骨関節疾患である.骨関節疾患は疫学研究の遂行に比較的困難を伴う疾患のひとつであるといえる.なぜなら骨関節疾患のほとんどは発生しても無症状であることが多く,疾病の発生日時を把握することができないため,疾患予防のための重要な疫学指標である発生率を把握することが困難になるのである.このような特徴を持つ疾患を研究目的とする場合は,住民コホート研究が必要となる.一般の方々が参加するコホートを追跡することにより,目的とする疾病につながる変化を把握でき,発生率が推定可能となる.多くの方々のご協力を得て,私たちは2005年から大規模住民コホート研究Research on Osteoarthritis/osteoporosis Against Disability(ROAD)を開始した.初回調査の3,040人の参加者の方々に,生活習慣調査,運動機能調査,医師の診察,栄養調査,膝や腰椎のX線検査などを実施することができた.これらの解析から,変形性膝関節症,変形性腰椎症,骨粗鬆症などの有病率や関連要因についてのエビデンスを発信することができた.2008年から開始した3年後の追跡調査では,初回調査の82%もの方々の参加を得た.来年2012年からは7年目の追跡調査を実施する予定で,その準備に追われている.追跡調査から目的疾患の発生率と危険因子を明らかにすることができるだろう.これらはいずれ運動器疾患の予防,歩行障害の低減につながり,高齢者の要介護予防にも役立つ.
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