南極物語
夏の終わり
大野 義一朗
1
Giichiro OHNO
1
1東葛病院外科
pp.81
発行日 2002年1月20日
Published Date 2002/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407904757
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謹賀新年.南極2度目の正月を迎えた.8人だけのやまと山脈雪上車生活も4か月目に入っていた.隕石探査を終えてキャンプに戻ると水を作るための氷を採取し,通信用アンテナを張る.食事当番はソリから持ってきた食糧を日中解凍して調理した.一番人気は鍋だった.缶ビールは一度ぬるくなるまで完全に解凍して再び車外で冷やしたが,数分遅れるとまた凍結した.すっかり別物の味になったビールを飲みながら鍋をつつき,1日の出来事を話し合った.拾った隕石の大きさ,振り返ったときの氷の青さ,風の冷たさ,毎日同じ繰り返しのなかのちょっとした今日だけの特別さを共感し合える食卓だった.
夕食後はささやかな自由時間だ.活字ならどんなつまらない雑誌でも隅々まで読んだ.氷原の散歩も人気があった.足元の氷は吸い込んだ白夜の陽光を吐き出し,妙に明るい.時折氷のきしむ音が足の底から響く.しばらく歩くと緩やかな起伏に車影が消え,一瞬風が止むと全く音が消えた.
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