特集 外科患者・薬物療法マニュアル
Ⅲ.術前・術後管理における薬物療法の実際
15.深部静脈血栓症手術
矢野 孝
1
1名古屋大学医学部第1外科
pp.110-111
発行日 1992年10月30日
Published Date 1992/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407900959
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四肢の静脈循環は,筋膜下の深部静脈系,筋膜上の表在静脈系によって行われ,両静脈系は貫通静脈によって連結している.表在静脈系は静脈還流に果たす役割は少なく,その大半は深部静脈系が担っている.したがって,表在静脈系の閉塞で,臨床的に静脈還流障害の症状が出現することはない.四肢の静脈には所々に静脈弁が存在し,静脈血の逆流を防止して,起立位や運動時の静脈圧の上昇を防いでいる.また,貫通静脈の弁は深部静脈系から表在静脈系への逆流を阻止している.
深部静脈血栓症の治療の目標は,正常な弁機能を備えた深部静脈の開存を確保することで,同時に肺塞栓の発生を防止することである.弁機能の保存を期待する場合には,血栓摘除術,血栓溶解療法いずれを選択する場合でも,遅くとも1週間以内に血栓除去して血流を再開させることが必要である.したがって,深部静脈血栓症を診断したら,直ちにこれらの治療を開始することが重要である.静脈血栓の発症後2週間以上経過したものは,ウロキナーゼによる血栓の溶解は期待しがたく,ワーファリンによる経口的抗凝血薬療法を選択する.
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