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著者の佐々木克典先生は本書初版の序文で「卒後まだ日の浅い若き術者は,学生時代に学んだ解剖をうまく使えないということに,もどかしさを感じるのではないか」と述べておられるが,私はまさにその一人であった.私が1996年に大学を卒業し熊本大学第1外科に入局した年に雑誌『臨床外科』にて本書初版のベースとなる連載が始まった.私は雑誌から「外科医のための局所解剖学序説」の連載を切り離し冊子とし使用してきた.2006年に書籍として本書初版が出版され,長く待ち望んでいた第2版を2022年に手にすることができた.
本書では系統解剖学と手術の実践解剖のギャップを埋めるべくさまざまな手法がとられている.その一つとして,体表の構造物を深部の構造物と結びつけることがある.個体差を超え構造物が恒常的に同じ位置にあることは手術のアプローチやIVRの手技などの基礎となる.また手術では表層から深部へアプローチするが,視点を変え深部から表層へ,左右の違いを理解するため正中から外側へ構造物をたどる手法がとられ,立体的な理解が得られるよう工夫されている.また生体には解剖を理解するための重要な間隙や断面がありその詳細が解説されている.私は本書の立体的なシェーマと『グラント解剖学図譜』などの解剖図譜を見比べながら,構造物を本文に沿って一つひとつたどっていき,そして手術に入るといった作業を繰り返した.単調ともいえる作業であり,膨大な構造物をすぐに覚えられるわけではないが,繰り返しているうちに次第に血管の基本走行や隣接臓器,さらに深部の構造物との位置関係が把握できるようになり,さまざまなメルクマールを持つことができるようになった.この知識は定型的な手術の安全な遂行や時間短縮だけでなく合併切除や突発的な出血への対応に役に立つ.
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