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研究の背景
膵癌全体の5年生存率はおよそ8%にすぎず,致死率が高い最難治癌の一つである.その原因として,来院時におよそ70〜80%の患者が切除不能膵癌と診断され,多くの場合遠隔転移を有する.なかでも腹膜転移膵癌は多彩な臨床症状(腹痛,食欲不振,腹部膨満感など)を呈し,化学療法の継続が困難となり,極めて予後不良とされている1,2).腹膜播種診療ガイドライン2021年版では3),肉眼的腹膜播種と顕微鏡的腹膜播種(腹腔細胞診陽性)に分類された.臨床的には画像で腹膜播種や腹水貯留が診断され癌の随伴症状を伴う場合には,化学療法の導入や継続が困難で,その生存期間中央値は2〜4か月と報告されている1,2).一方で,画像上明確な腹膜結節や腹水が存在しない場合でも腹腔鏡検査や開腹時に肉眼的もしくは顕微鏡的腹膜播種が診断される場合には,症状が乏しく化学療法を投与可能なことが多く,その生存期間中央値は7〜10か月と報告されている4).
われわれは,2013年から他臓器転移のない腹膜転移膵癌患者に対して,S-1+パクリタキセル(PTX)経静脈・腹腔内投与併用療法の多施設共同第Ⅰ相ならびに第Ⅱ相試験を遂行してきた.腹膜転移膵癌患者33名に対して,奏効率36%,腹腔洗浄細胞診陰転化率55%,全生存期間中央値は16.3か月であった.さらに腹水細胞診の陰転化ならびに腹膜播種の肉眼的消失を確認したのちにconversion surgeryを8例(24%)に施行し,その生存期間中央値は26か月に到達したことを報告した5).さらに,自験例の腹膜転移膵癌患者49名を対象(当該治療20名 vs. 全身化学療法29名)に治療成績を比較したところ,前者では一次化学療法の継続期間が長く(9 vs. 6か月),1年以内の腹水貯留率が低く(25 vs. 62%),生存期間中央値が有意に延長(20 vs. 10か月)しており,20名中6名にconversion surgeryを施行しえた6).当該治療は腹膜病変の制御だけでなく原発巣の縮小による切除率の向上と予後の延長が期待される.
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