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B型肝炎は核酸アナログ製剤により,C型肝炎は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の導入により多くの患者で肝炎の鎮静化を図ることが可能となった.したがって,肝炎から肝硬変へ,また肝細胞癌への進展抑制は確実に図られることになるが,現時点で肝線維化の強い(F3, F4)慢性肝疾患患者においては“死に至る病”である肝癌からの解放が残された課題である.日本肝臓学会は2000年から「肝癌撲滅」をスローガンに掲げ,『肝がん白書』の発刊や各地域で「市民公開講座」を開催し国民に対する啓発活動を行うとともに,肝癌診療に当たる医師向けには『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』(日本肝臓学会編),さらには『肝癌診療マニュアル』(日本肝臓学会編)を出版してきた.この2冊のテキストに『臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約』(日本肝癌研究会編)を加え,肝癌診療におけるバイブルとして肝癌専門医のみならず一般医家にとっても必携の書物となっている.がん登録・統計によれば1994年の年間死亡者数4万人超をピークに減少し2012年には29,700人(2014年がん統計)と著しく改善している.
さて,『肝癌診療マニュアル』第3版がこのたび上梓された.本書の特徴は肝癌について予防から診断,治療に至るまで科学的に実証された事実をConsensus Statementとして簡潔に冒頭に掲げていることで,これだけを読んでも肝癌診療におけるわれわれの姿勢がどうあるべきか理解できるようにアレンジされている.それぞれのStatementに対しては第1章から第10章にかけてその根拠が具体的に説明されている.必ずしも肝疾患を主体に診療を行っていない医師にも「第1章 D.肝癌の疫学とハイリスク患者の設定」だけは是非とも読んでいただきたい.肝癌の早期発見が生存率の改善をもたらすことは,取りも直さずハイリスクの患者群をいかに早く早期発見という“まな板”に乗せるかであり,そこから本書の各論に記載された内容が実行されていることをご理解いただきたい.本書の中で,必ずしもエビデンスレベルの高くないものも記載したと断ってあるが(xページ「本書の記載内容について」より),『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』作成に着手した2002年頃は,日本からのエビデンスレベルの高い発表論文が少ないため欧米の論文を中心にガイドラインを作成したことも一因である.例えば,日本では一般的な肝癌診断におけるAFPの意義や治療におけるTACEの評価は,AASLD(米国肝臓学会)ガイドラインでは必ずしも高くない.
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