新形影夜話・8
臨床医学の本旨
陣内 傳之助
1,2
1大阪大学
2近畿大学医学部附属病院
pp.1328-1329
発行日 1983年9月20日
Published Date 1983/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407208432
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30年も前の話である.脳腫瘍かもしれないが痙攣発作をもつ10歳くらいの男の子の父親が相談にやつてきた.当時は脳の手術といえばかなり危険性があつたので,その死亡率についても話したが,よほどの決心だつたのであろう.この父親の職業は検事であつたが,言われることがふるつている.「あなたのお仕事も私の仕事も人を死に落し入れる点ではよく似ていますね.しかしあなたは何とかして助けようと思つてなさるんだからよろしいけれども,私どもは意識して死刑を求刑するのですから,それは辛いですよ.だからそんなときにはいつも,自分の背後には1億の良民が居て,自分達の平和のためにどうかこの悪人をこの世から抹殺して貰いたいという悲壮な叫びを思い浮べ,その声援に勇気づけられて死の求刑をすることにしてるんですよ」と語つてくれた.
またそのあと続けてこんな話をされた.「私どもの考え方からいえば,なるべくその罪を罰して人を罰せずという態度でありたいのです.ただし悪事は決してさせないようにせねばなりません.いまお酒を飲んだら決つて犯罪を犯す者が居るとするなら,シァナマイドなどの抗酒剤を飲まして酒が飲めなくなるようにしてやるとか,また万引を常習とするスリは何度ひつとらえて牢に入れても出てくると必ずまた万引をするもので,何度牢に入れても何にもならない.
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