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"Esophagus lined by columnar epithelium"は,1975年Barrettにより,同時にみられた深い潰瘍とともに報告され,Allisonら(1953)の,解剖学的にも,X線所見上からも胸腔胃でなく,上皮が円柱上皮である食道であるという説明がなきれ,Barrett Syndromeと呼ばれるようになった.同じ頃,Lortat Jacobは,噴門が定位置にあり,外見は普通の食道と変わらないもので,食道胃接合部が食道内を上昇してみられるものを"endobrachyesophagus"と命名したが,Barrett Syndromeと同じものである.今日では,軽度の滑脱型食道裂孔ヘルニアを伴うものも含めて差支えないとしている(Richard,1968).ここで成書からシェーマを示し(図①),定義を整理してみると,"高位の食道の狭窄,食道炎所見部分と軽度裂孔ヘルニアとの間の食道は,X線上全く普通の食道と変わらないが,ただ,上皮だけが円柱上皮であるもの"となる.円柱上皮部分の食道は,食道内圧曲線上も扁平上皮の普通の食道と全く同じで,診断は内視鏡検査でのみ可能である.解剖上も粘膜下層,筋層は食道の構造であり,血管も大動脈から直接にでるもので支配され,漿膜はみられない.図②のX線写真で,中部食道に軽度の狭窄をみ,食道裂孔ヘルニアを軽度にみるも,他は普通の食道造影像である.内視鏡では25cmに食道胃接合部をみ,付近の食道粘膜に食道炎所見をみる(図③).肛門側の粘膜はビロード状で光沢が乏しく,やや赤味をおびていた(図④),生検で幽門腺様の円柱上皮を認め(図⑤),Barrett Syndromeと診断した.Barrett Syndromeの成因は,現在後天性,つまり食道炎の修復過程で,分化度のより低い円柱上波化が起こるためと考えられているが,自験例でもそれをうらづけられる.図⑥の内視鏡所見は,38cmに食道胃接合部をみ,その口側の食道に食道炎をみる.肛門側は胃粘膜が全周にわたつてみられ,40cmに写真では閉じているがpinch cock actionがみられ,裂孔ヘルニア+食道炎と診断した.図⑦はこの例の5年後で,接合部は25cmで,形はやや不整だが明瞭にみられ,僅かに食道炎をみる.その肛門側は光沢のない赤味のある粗秘な粘膜がつづき,pinch cock actionは前回と同じく40cmにみられた.結局5年間で接合剖1が13cm上昇したわけで,生検で胃粘膜様上皮と診断,しかしX線像では,裂孔ヘルニアの口側は全く普通の食道である.図⑧は胃全摘後10年の例で,約6ヵ月前より嚥下障害を訴えてきた.X線像で中部食道に狭窄をみる.細径ファイバースコープを挿入したところ,狭窄部以下吻合部まで正常食道粘膜と異なる,粗造で黄赤色調の粘膜をみ,生検で小腸粘膜上皮様上皮と診断,Barrett Syndromeの特殊な例と考えている.Barrett Syndromeには腺癌が合併するが,図⑨,⑩はその1例のX線像,摘出標本である.癌腫の口側縁にほぼ一致して粘膜の移行部がみられた.
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