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はじめに
肝臓は生体内で最大の実質臓器であり,生体の代謝の中心的な役割を果たしており,糖質,蛋白質,脂質の合成分解,さらに色素,ホルモン,薬物等の代謝,解毒排泄等の複雑な機能を営なむ.加えて循環系,造血系,血液凝固系にも大きな影響力を持つ.また肝臓は大きな予備力を有しており,通常はその能力の2割程度の働きで十分であるが,必要に応じて5倍の働きをなし侵襲に対処しうる.
一方,肝機能障害は症状を伴わないことが多い.かつては黄疸,腹水などの症状の発現で肝障害を知つたが,それは進行した肝機能低下の状態であり近年血液生化学的検査の進歩に伴い軽度の肝機能障害をも探知しうるようになつた.外科においても血液生化学的検査を行ない,手術前肝機能検査異常を知り,手術適応の有無を内科に問合わせてくることが多くなつた.われわれ内科医にとつてもきわめて難かしい問題であり,肝機能障害以外にも原疾患,年齢,栄養状態,心肺機能等も同時に考慮しなければならない.一般に手術に伴う侵襲,術中の肝血流の低下,ショック,麻酔,投与薬剤等は肝機能障害の増悪因子とされ,またウィルス以外の術後黄疸の原因と考えられている9).一度手術後に肝不全に陥るとその回復はきわめて難かしいので,肝機能の悪い患者が手術を要する場合には,慎重に考えなければならない.どの程度の肝障害に手術を施行した場合,増悪させるか,またどの程度の障害の時は,後にいちじるしい変化を残さずに手術をしうるかを適確に判断し予測することは,routineの肝機能検査のみでは必ずしも十分でない.可能な範囲でいろいろの検査方法を駆使して,肝病態の診断およびその重症度を決め,手術適応を決定するのが望ましい.もちろん診断に要する時間を待期できない緊急の手術の場合は別である.本稿では,肝機能障害患者の一般外科的手術の適応について,および手術すべき原疾患が肝.胆道系疾患の場合の適応について述べる.
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