患者と私
患者の顔
福田 保
1,2
1順天堂大学医学部
2杏林大学
pp.850-851
発行日 1970年6月20日
Published Date 1970/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407205129
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長い間外科領域での生活をふり返つてみると,忘れ得ないいくつかの患者の顔が浮んでくる.治療に手古摺つた患者でも,幸に健康を回復し得たものもあるが,手を尽したにも拘らず死んでいつた患者には忘れ難いものがある.また思い出せない患者から突然会つて感謝されることもあり,また手術創を見て思い出して患者の顔を見なおすこともある.
四十数年前外科臨床に入つて間もない頃である.ある痔瘻の患者の顔には強く印象に残されたものがあつた.私が東大青山外科に入つた頃は医員が少なく,1年足らずで施療患者のベット12床を1人で受け持つことになつた.間もなくその青年の痔瘻患者は翌日手術予定がきまり,患者から痔瘻は結核から来るのでしようかと問われるままに,そう言われていますと簡単に説明してしまつた.当時私は組織標本を何例か作つていたが,実際病巣に結核性変化を示したのは極めて少なく,多くは瘢痕組織から成つていることを知つていたが,患者に対する説明が不十分であつたかと思う.
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