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腹膜が癒着を來し易いことは,吸收並に滲出機轉の旺盛なことと共に最も重要な三大機能の一であり,腹膜腔内に起る病的状態,特に炎症の拡大を阻止する上に意義の大きいものであるが,その反面屡々好ましくない後遺症発生の原因となることも周知の通りである. 開腹術後に起る癒着は概して不利な面が多く,所謂手術後難澁症として腸管の狹窄を來し,或は完全な腸閉塞に至る場合も稀でない. 從つてこの腹膜癒着の問題は随分と古くから多数の人によつて研究されており,その防止に就ても数百に上る文献があるが,一般に広く行われ易く,且つ効果の確実な予防手段が確立される所までに至らず,最近も米國に於て盛に論議されつつある状況である. 即ち非常に古い問題であると同時に,新しい檢討を要望される問題の一つである. 吾々も最近この檢索に携つているので,交献的に概観すると同時に,吾々の成績を加えて考察して見度いと思う.
腹膜が癒着を來す原因としては,腹膜被蓋細胞の傷害を來すあらゆる因子が挙げられ,特に細菌の感染は最も重要な因子であるが,なお機械的な摩擦,乾燥,冷却,出血などの外,藥物例えば消毒剤に接触するための化学的刺戟もその原因となる. この際個人的な体質的素因が大きく関與し,完全な無菌的開腹手術であり,又その操作に如何に綿密な注意を拂つても,術後広汎且つ高度の癒着を経驗することが屡ゝある. これは古くからケロイド体質と関連があると言われる癒着性体質とも呼ぶべきもので,手術的に剥離したとしても再び元通りの,或は多くは更に高度の再癒着を発生するのが常である. 從つてこうした患者を手術的に治療することは極力差控えるべきものとされるが,然し症状によつては止むを得ず開腹しなければならぬこともあり,時には数回に亘り相次いで開腹手術を繰返される場合がある.
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