Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
脳室系は胎生期神経管の拡張の結果形式される。発生学的に神経管は三つの脳胞に分かれ,前脳胞より側脳室と第III脳室が,後脳胞より第IV脳室が生ずる。中脳胞は後に被蓋と四丘体になる神経組識の増殖によつて狭くなる。これが中脳水道であり,中脳胞の遺残である"ven—tricle of the mid-brain"と呼ばれる膨大部を内蔵してはいるが,細管にすぎないものである。解剖学的には後交連下端と四丘体下丘下縁を通り脳幹長軸と直交する断面の間をいい,長さ約11mm,断面において約1.3平方mm,円形,卵円形,あるいはT字形などを呈する。通常,単層の円柱上衣細胞で被われている。
ところでこの中脳水道の狭窄ないし閉塞が生ずると,いわゆる内脳水腫internal hydrocepalusに陥り頭蓋内圧亢進症状を惹起することは周知の通りである。その原因としては腫瘍性病変,炎症性病変はもとより脳底動脈動脈瘤やaneurysm of the vein of Galenによる圧迫,また頭部外傷,髄膜炎,脳硬塞などによる線維塊,脳の壊死組識(infarct debris)が栓子としても中脳水道を閉塞し得る。しかしここに提示する症例は,脳腫瘍,髄膜炎その他の明らかな原因によらず,中脳水道に限局して狭窄ないし閉塞がみられるもので"先天性または非腫瘍性中脳水道狭窄症"として扱かわれてきた病態である。この病態はHilton6)(1863)の報告に始まり,Spillerら19)(1902)の病理解剖学的研究により注目を集め,その後多数の報告がなされた。本邦においても平福ら7),井田8),高三ら20),中尾ら12)の報告がある。乳児では閉塞性水頭症の約半数はこの中脳水道狭窄症によるとされる。しかし成人になるにつれその出現頻度は減少する。病理組識学的にも発生機転が形成異常によるか炎症によるものかは現在なお異論があり興味がもたれている病態である。
A case of 27 years old housewife who had revealed intracranial hypertention atter the first delivery was presented.
From the examination of the patient, a diagnosis of non-neoplastic aqueductal stenosis was provided.
Regarding with the transient appearance of Argyll Robertson pupils in the case, anatomical and pathological considerations of the mesencephalic structures were attempted with a particular re-ference to clinical symptomatology.
Copyright © 1972, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.