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I.はじめに
中枢神経系と内分泌系との接点である視床下部—下垂体系が,生体のhomeostasisの場において,中心的位置を占めるものと考えられてきたことは周知のところであるが,本系の演ずる役割についての機能的,構造的基礎がほぼ明らかにされたのは比較的最近である。すなわち視床下部神経核と下垂体後葉との神経連絡ならびに神経分泌に関する知見は,細部の問題は残されているにせよ本系をひとつの機能単位として把握する根拠を与えたものであり,他方視床下部と辺縁系あるいは脳幹網様体さらに新皮質との機能的連関に関する最近の大脳生理学的知見は,本系が生命衝動,情動,意識緊張などの基本的精神活動と内分泌との交互連関の場における要衝であることをいつそう明らかにしつつある。このような脳と内分泌系との機能的,構造的連関からみても精神機能と内分泌機能との間に密接な関係があることは疑い得ないところであり,臨床的にもこの問題については古くから注目されている。すなわち諸種の内分泌疾患にしばしば精神障害の伴うこと,また精神疾患特に急性の精神障害時には,大なり小なり内分泌平衝に破綻のみられること,さらにある種の精神疾患にホルモン療法が著効を示したり,あるいはホルモン,ことに副腎皮質ホルモンによる治療中に稀ならず種々の形の精神障害が出現するなどのことは臨床経験の教えるところである。しかし,いずれの場合にも内分泌障害の性質と精神障害の様式との間には一定の法則性は認められず,また精神疾患に認められる内分泌異常も概して情動や意識障害に呼応した非特異的生体反応として解消してしまうようであり,疾患特異性はみいだし難い。このように精神機能と内分泌との関係は密接であるにもかかわらず,一面その関係はきわめて非特異的といわざるを得ない。一般にホルモンの作用は,その標的臓器における酵素系への干渉を介して,その代謝ひいては機能を調整する点にあると考えられているが,今日ホルモンの脳代謝あるいは脳機能におよぼす影響についての研究はまだ乏しく,確定的な所見はあまりない状態である。このような現況にもかかわらず,精神科臨床においてしばしば内分泌学的検索の必要にせまられることも事実である。すなわち躁うつ病的状態の段階からさらに夢幻様状態や朦朧状態あるいは錯乱譫妄状状態ないし緊張病性症候群など,情動・意識障害を主とする病像を示し,しかも比較的規則的な周期をもつて,特に女子においては月経周期とかなり密接な関連をもつて発病を繰りかえす一群の疾患に相遇することは稀ではない。このような症例においては内分泌学的接近により治療への端緒をつかみ,その周期的発病を阻止せしめ得る可能性も少なくないと考えられる。
この意味においてわれわれは周期性精神病のうち特に周期的発病の頻繁なものを対象として内分泌学的検討を行なつた。この場合あくまで個々の症例についてその臨床経過にそつて,継時的に内分泌的homeostasisの動態を追求し,治療との連関において,それが病態発生にいかなるかかわりをもつかを個々に吟味することを課題とすべきはいうまでもない。
The characteristic of periodic psychoses is psycho-biological instability, of which the functional vulnera-bility of the diencephalo-pituitary system can be posulated as consitituting the predispositional back-ground. Because of such a predisposition, acute breakdown of the psychic function tends to recure frequently either autochthonously or reactively. Along with the mental breakdown, periodic psychoses show various endocrine disorders, which are of themselves a non-specific bodily reaction, but have great significance in giving clues to therapy.
The most important of these reactions is hormone metabolism disturbance in the liver. The author interprets this metabolic disturbance as an aspect of breakdown in cerebro-hepatic homeostasis which has great importance in the pathogenesis of acute psy-choses such as the periodic psychoses.
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