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1月末ニューヨークについた当時は寒い冬の最中で,すぐ近くに見えるハドソン川もぎつしり氷が張りつめ,東京に比べてあまりの寒さに震えあがつたものでした。その上,当時は昨年来の新聞ストが続いており,3月末にやつと解決した有様で,まさか自分のアパート探しにまで真刻な影響を与えるとは思いもよりませんでした。インターンやレジデントでこられる方々には大学や病院で寮を用意しておりますので,アパート探しの必要はありませんが,fellowでこられる方は高いアパート代を自分で払うのですからやはり自分で探さなければなりません。こんな苦労もニューヨークだけのことかもしれませんが,家族でこられる方は前もつて,この点は十分お考えになつておくべきだと思います。家族がみな外国語を話せるのならともかく,言葉の障害はかなりのものです。その上,気候や食物などの変化が,目にみえない大きなストレスとなります。地下鉄に乗ることも,バスに乗ることも慣れればたいしたことがないのですが,初めの頃はひどくむずかしいものです。地下鉄に乗る,そして降りる,たつたそれだけのことが精神的にも肉体的にも疲れのもとになります。小さな子供さんがいる場合は,そんなわけで行動力がにぶり,ひきこもりがちになつてしまいます。ですから,最初は一人でこられて,アパートをみつけ,日用品や家具などの最低限のsettingをすませ,街の地理にも慣れてから御家族を呼ばれることをおすすめします。留学などというと勉強ばかりしに行かなければならないような感じもしないではありませんが,もつともたいせつなことは,そこでの生活のペースを作ること—寝ること,食べること,住むことに慣れることが最初の,そしてもつとも重要なことだと思います。もちろんこれは,その人の性格,環境,年令などによつて異なることですが,私のような立場ではそんなことをすませてはじめて研究にも精がでる,と自分なりに感じています。
ニューヨークにきてみて感じた印象のひとつは,人々の背の高さが思つたより低いことでした。これはニューヨークだからのことかもしれません。国際都市であり,世界中の人々がここに集つていることにもよるのでしようが,ともかく日本で考えていたのとまつたく違つた印象でした。慶応神経科の三浦教授が,私の出発する前,Dr. Roizinは背が低いからいいよ,といわれて笑いましたが,Dr. Roizinはなるほど三浦教授ぐらいしかありません。婦人も年配の人はきまつて低いようです。私のいるInstituteでも大部分のdoctorは私と大差なく,圧迫感をいだかずに親近性を感じてのんびりやれるというものです。背が高くないということが美人の条件で,低鼻術が行なわれているといわれますが,こんなことを聞くと日本人もすてたものじやないと苦笑させられます。
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