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症 例 62歳,女性
平成15年8月7日朝,鏡をみたところ左顔面麻痺を自覚したが様子をみていた。しかし,症状が改善しないため3日後に当科外来を受診した。来院時House-Brackmann分類Vの顔面神経麻痺を認め,左前頭筋麻痺のため末梢性と診断し,ベル麻痺に準じて入院当日よりビタミンB12およびステロイド(プレドニン4mg/日から漸減)内服を開始した。中枢神経障害の精査のため入院翌日に頭部MRIを施行したところ,顔面神経核近傍の左橋下部背側に高信号(図)を認め,この小梗塞もしくは脱髄性病巣が今回の末梢性顔面神経麻痺の原因と考えられた。脳血栓症に準じてオザグレルナトリウムの投与と高気圧酸素治療をステロイド内服に併用したが,症状の改善は得られなかった。その後,8カ月間に新しい多発性硬化症の病変は出現していない。
コメント
特発性ベル麻痺は急性発症する末梢性顔面神経麻痺で,顔面神経膝神経節のウイルス感染により神経性浮腫をきたし顔面神経管内での神経の圧迫が原因とする考えが一般的である1)。一方,症候性顔面神経麻痺をきたす頭蓋内疾患としてMillard-Gubler症候群がよく知られており,下部橋傍正中部の障害のため外転神経麻痺と片麻痺を合併する。過去,末梢性顔面神経麻痺単独で発症した脳幹病変の報告は稀で,これまでに橋内の微小梗塞4),出血3),多発性硬化症2)による報告があるのみである。時間的,空間的に多発する病変がない場合,脱髄性病変か虚血か鑑別診断が難しいが,症状の改善のないベル麻痺症例の中に,本症例のような脳幹病変が原因である症例が含まれていることを念頭におき,詳細なMRI検索が予後判定に必要と思われたので報告した。
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