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はじめに
細菌性髄膜炎は免疫不全症患者に合併することは少なく,細菌性髄膜炎発症者のほとんどの患者に目立った免疫異常はみられない。しかしながら,稀にある種の先天的免疫不全あるいは後天的免疫不全症が急性細菌性髄膜炎の発症により見い出されるかもしれない。また,後天的免疫不全は,腫瘍に対する化学療法,放射線療法,免疫性疾患に対する免疫抑制剤の使用,全身性広汎性エリテマトーデス,糖尿病,慢性腎不全,慢性アルコール中毒など疾病自体によるもの,臓器移植のほか様々な疾患,治療法が免疫不全をもたらすほか,高齢化も免疫機能の低下をきたす。悪性腫瘍は,転移性効果,遠隔性効果,化学療法剤による脳症,あるいは全身性エリテマトーデスは直接的な中枢神経障害から神経精神障害をきたすなど疾病固有あるいは治療に伴う神経系障害をきたす可能性があり,免疫不全状態をきたす疾患に生じた神経症状に関しては様々な病態を鑑別する必要がある。免疫不全症に関連した微生物に対する変化は,①通常は毒性の低い病原体が病原菌になる可能性が高いこと,②感染が速やかに成立すること,③感染症に伴う通常みられる臨床・検査室所見,感染マーカーがみられないか,検出されないことさえあることであり,そのため全身的にも,神経学的にも通常の感染徴候を示さない可能性がある。さらに,このような患者は基礎疾患,全身性感染,薬剤の影響,栄養不良,血管カテーテルの留置などに関連した様々な問題を抱えている。
ところで,免疫不全に合併した細菌性髄膜炎は,免疫不全状態がどのようなタイプの免疫不全なのかを理解することにより問題となる微生物がおおよそ予想でき,エンピリカルな治療を適切に行うことができる(表1)。移植では,移植後経時的に種々の免疫不全が交互にあるいは併合して発症し,それぞれの免疫不全が生じる時期がおおよそ一定であるため,移植後の経過時間により予想される感染症が決まっている。
免疫機能の低下した患者の症状は,宿主の炎症反応が低下しているために,通常の感染症でみられる典型的な臨床像がみられないことがある点に注意が必要である。そのために,臨床症候学的に中枢神経感染症の可能性が低くても,現時点では急性細菌性髄膜炎を理学所見,血液生化学所見,画像所見などから確実に診断する方法がないので,腰椎穿刺を行うべきである。
診断と治療の概略については現在のところ,Beggら3)およびTunkelら25)による髄膜炎の診療ガイドラインならびにSanford guide to antimicrobial therapy 20052)を参照して欲しい。また,免疫不全者に対して将来的には予防法を考慮することが重要であるが,現時点で特異な治療法があるわけでもないので,本特集で述べられている他の項目の細菌性髄膜炎の治療を参考にして欲しい。
成人細菌性髄膜炎に使用する抗菌剤の推奨量を表2に記載した。必ずしも本邦では使用できない薬剤,適応症のない薬剤,panipenemのように本邦でしか適応のない薬剤がある点や投与量にも注意して欲しい。Panipenemは本稿でのmeropenemと同様と考えて使用可能であるが,現時点では本邦での抗菌剤の急性細菌性髄膜炎に対する適正使用基準はない。ここでは様々な原因による免疫不全症とその際にみられやすい髄膜炎起炎菌,髄膜炎,特に免疫不全でみられやすいリステリア症に関して概説する。
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