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はじめに
神経変性疾患には疾患ごとに強く障害される部位,つまり系統性が認められ,これに基づき神経変性疾患は運動ニューロン疾患,錐体外路系疾患,脊髄小脳変性症などに分類されてきた。一方,Alzheimer病(AD)における神経原線維変化と老人斑に代表されるように,多くの神経変性疾患では神経細胞の胞体内やニューロピルに特徴的な構造物(封入体)が出現することも知られていた。近年,これらの構造物を構成する蛋白(標的蛋白)として,タウ,βアミロイド,αシヌクレイン(αS),ポリグルタミンなどが次々に同定され,神経変性疾患の多くが蛋白の異常蓄積と線維性凝集を呈する「蛋白凝集病」とみなされるようになってきた112)。その一つにシヌクレイノパチーがある。
αSはシナプス前終末と核に局在することからsynucleinと命名された75)。その後,UédaらはAD脳においてβアミロイドとは異なる老人斑アミロイドとして見い出された蛋白(NAC)のcDNAクローニングを行い,NACの前駆体(NACP)として同定された遺伝子がαSのヒト相同遺伝子であることを明らかにした142)。しかし,αSが神経変性疾患において病態解明の鍵を握る分子として世界中の注目を集めるようになったのは1997年以降のことである。この年,南イタリアに起源を有する家族性Parkinson病(PD)の原因遺伝子としてαSが同定された108)。この家系では剖検によりLewy小体の出現が確認されていたので33),原因遺伝子産物であるαS蛋白がLewy小体に蓄積しているかどうかが焦点となった。結果的には,遺伝性,孤発性を問わずPDおよびdementia with Lewy bodies(DLB)に出現しているすべてのLewy小体がαS抗体によって強陽性に染色された10,124)。さらに,翌年には多系統萎縮症(MSA)に特異的に出現するグリア封入体がαS陽性であることが判明した9,141,148)。Hallervorden-Spatz病の中にもαS蓄積を伴う症例群の存在が確認され6,29,151),Lewy小体病(PDおよびDLB)とMSA,Hallervorden-Spatz病を包括しシヌクレイノパチーという新たな疾患概念が誕生した。
本稿ではシヌクレイノパチーにおける神経細胞ならびにグリア細胞内封入体の形成機構,さらにはそれらと神経細胞変性との関連について述べてみたい。なお,αS蛋白の正常構造や生理的機能については他の総説を参照されたい12,18,121)。
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