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症 例 75歳,男性
20年来の糖尿病の既往があり,経口血糖降下剤を内服し加療している。
平成17年2月23日,意識障害で発症した。意識レベルはJCS 100であった。診断可能な範囲で四肢の運動および感覚に左右差はなく,脳神経の異常も認められなかった。
発症14時間後のMRIでは,拡散強調画像で脳梁膨大部に高信号域を認めた。しかし,T1強調画像,T2強調画像,FLAIR法では明らかな異常は認められなかった。MR angioraphyでも脳動脈や頸部動脈に異常はなかった。
MRI撮影中に判明した血液生化学検査では,血糖28mg/dlと著明な低血糖を認めた。直ちに50%ブドウ糖40 ml静注を施行し,意識は改善し,清明となった。4日目のMRI拡散強調画像では,脳梁膨大部の高信号域は消失した。また,T1強調画像,T2強調画像,FLAIR法でも明らかな異常は認められなかった。
コメント
重度の低血糖では様々な神経症状を引き起こし,急性期では脳卒中と鑑別が困難な場合がある1)。MRIでは拡散強調画像で基底核,橋,側頭葉や後頭葉の脳皮質,海馬,脳梁膨大部に信号増強が認められることが報告されている2)。また,Bottcherらは,低血糖の改善により拡散強調画像の高信号域が消失したことを報告している2)。低血糖における拡散強調画像の信号増強の機序は明らかではないが,低血糖による脳エネルギー欠乏のため脳細胞膜障害をきたし,細胞障害性脳浮腫をきたすものと考えられている2)。本症例は,意識障害で発症し,低血糖の改善とともに症状が改善したこと,症状の改善とともに画像所見も改善したことにより,脳虚血による拡散強調画像の変化ではなく,一過性低血糖による変化と考えられた。
どの程度の低血糖で,どの部位に拡散強調画像で高信号域が出現しやすいのかなど,今後の症例の集積が必要である。また,意識障害や神経脱落症状などで発症し,拡散強調画像で高信号神経症状を呈した場合,低血糖にも留意する必要がある。
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