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はじめに
治療に対する抵抗性や難治性は,治療を行う側が摂食障害という問題をどのように定義しているか,あるいは何を治療目標と考えているかに関係した概念である。例えば,神経性無食欲症の治療において,低体重や無月経など身体的機能における障害こそ解決すべき問題であると定義するなら,その改善を図るための治療に進展があるかぎり難治性は問題にならない。その意味で,中心静脈栄養法や経管栄養法を用いて体重の回復を目指すアプローチでは,そもそも難治性患者はいないのかもしれない。あるいは,低体重という症状は思春期青年期の発達危機としての独立と依存をめぐる葛藤の表現であると定義して治療を進めるならば,治療者は食事制限という態度の意味を患者と一緒に理解しようとし,そうした葛藤の解決を目指すが,その場合難治性は患者の体重の程度ではなく,食へのこだわりを変えようとしない患者の態度の執拗さで示されるだろう。また,他者に援助を求めることや依存することに根本的な葛藤があるケースでは,難治性は食や体型に対するこだわりの強さなど,摂食障害に特有の精神病理の重症度で測られるのではなく,治療スタッフとの治療関係の展開の中で検討される必要がある。
また,難治性や治療抵抗性は治療アプローチの特異性との関連で考える必要がある。摂食障害の治療として多様な試みがあり,あるアプローチは全く奏効しないが,同じ患者に別のアプローチを試みるとうまく行くこともあるからである。その意味で,これから述べる内容は,筆者の治療的立場,つまり,障害された食行動の修復と健康な食事習慣の回復を目標とする認知行動療法的アプローチに,家族システムの中で問題を理解する視点と力動的アプローチを取り入れた統合的治療の立場5,6)から考える難治性摂食障害であることを断っておきたい。また,神経性無食欲症(AN)と神経性過食症(BN)では治療における目標設定や治療の進め方に異なる点があるので,両者を区別して難治性患者について考えたい。
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