巻頭言
邂逅
田辺 敬貴
1
Hirotaka TANABE
1
1愛媛大学医学部神経精神医学講座
pp.6-7
発行日 1998年1月15日
Published Date 1998/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904462
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筆者の専門は神経心理学であるが,脳に携わる臨床医の基本は精神神経症候学だと思っている。最近は神経科学領域との研究上の接点が多くなり,またこの領域の飛躍的な展開から,精神神経疾患例が呈する言動を脳の仕組みの立場から捉える試みを模索している。例えば,最近注目されている分裂病の神経発達障害仮説がある。この説では,神経膠症(gliosis)を伴わない海馬領域などの細胞構築学的異常が指摘され,神経発達段階の初期過程での障害が想定されている。臺 弘先生が指摘する,同じ内容の幻覚や妄想が繰り返すという履歴現象,あるいは関係念慮にみられる外界からの知覚情報を過去の体験や知識と照合することの障害といった分裂病の症状は,側頭葉内側部の後天的障害でみられる通常健忘症と称せられる単なる記憶の読み込みや取り出しといった障害ではなく,記憶処理系に発達段階で機能異常が生じるため,情報の処理統合の過程に,変容が生じると解すれば魅力的であるかもしれない。
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