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「脳の世紀」といわれ,最近は神経科学の進歩が著しい。Human Genome Projectの進行とも相侯って,精神・神経疾患が遺伝子レベルでも論じられるようになった。畢竟,有名な雑誌は遺伝子研究の論文で埋まり,伝統的研究方法を用いている研究は受理されることが困難になりつつある。現在では精神科医の中にも遺伝子研究を主な研究領野とする者も少なくない。確かに,精神神経疾患の遺伝子研究により疾患の分類が再編され,従来は異なった疾患単位と考えられていたものが実は同じ原因遺伝子によるとされることもある。この逆もあるわけで,1つの疾患と考えられているものがいくつかの原因遺伝子による症候群であると結論される場合もあろう。そして,このような研究が将来的には新たな治療法の開発につながる可能性もある。
また,臨床精神神経薬理学の発展により,従来は治療困難な神経症とされていたパニック障害,強迫神経症へも効果的な薬物が同定され,薬物療法が著しく進展している。結果として,このような疾患を持つ患者に対する精神科医の治療的接近も変わりつつあるかに見える。現在は,分裂病症状の中で治療困難とされている陰性症状に対しても,精神科リハビリテーションに加えて,かなりの効果を示すといわれる薬の開発も行われている。このように,研究面,治療面でも生物学的精神医学の隆盛が明らかな現状である。一方,神経病患者は神経内科で治療されるようになり,薬物療法の進歩により,従来は我々が中心になり治療してきたてんかん患者は小児科,神経内科で,うつ病,神経症は心療内科で治療されるようになった。分裂病リハビリテーションにしても,精神保健福祉法の制定により,施設内治療から地域内治療への転換が明示され,福祉ホーム,福祉工場などの社会復帰施設や,社会適応訓練事業などの展開が急であり,そこでは実際にケアを担当する臨床心理士,医療ケースワーカー,精神科看護者などのco-medicalに主要な役割が移行している。これらの場所での精神科リハビリテーション的ケアを理解していない精神科医,あるいはそこで研究をリードできない医師は必然的にリーダーシップを失い,彼の役割が減少し,それを嘆く者も将来は出てくることになろう。実際,リハビリテーションの先進国,イギリスでは,施設によっては精神科医は検査,診断,処方という分野でしか参加していないところもある。現在の我が国では,まだ,リハビリテーションの研究・実践を担うだけのco-medicalが十分には育っていないので,この段階にまで至っている施設は少ないものと考えられるが,早晩,イギリスの後を追うということになりかねない。このように,研究でも臨床でもこれまで「精神科」的と考えられていたものが次第に変貌しつつあるように見える。
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