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■はじめに
Kannerが1943年に初めて自閉症について記載して以来,すでに50年以上を過ぎて,自閉症が単に幼児期の問題であるだけでなく,ほぼ一生にわたる極めて困難な状態であることが認識されるようになってきた。現在,なお原因論的に不明な点を多く残すとはいえ,症状論的にはかなり詳細に種々の事柄が明らかにされてきた。自閉症の経年的変化に関する知見に関して,年長自閉症者を含む長期予後についての報告14,15,25,40)が多く提出される一方で,自閉症の発症初期の状態をめぐる研究報告13,17)も少しずつ提出されるようになっている。しかし,これらの研究は3歳以降で自閉症と診断された児の状態を親が懐古的に振り返って陳述したものを情報源として用いている。このような後方視的データが持つ限界については指摘するまでもないであろう。このような後方視的研究の欠点を補うのが自閉症児を可及的早期に発見し,それ以後,長期的にフォローするという前方視的研究である。この前方視的研究には2つのメリットがあると考えられる。早期発見,診断が早期治療につながるという臨床的メリットと研究者が自閉症児を実際にフォローする過程で種々の症状の発達に伴う変化を把握し,それにかかわる要因を明らかにすることによって自閉症の生成過程を明らかにできるという学問的メリットである。自閉症児の可及的早期と言っても2歳半〜3歳より以前に遡ることができるかというと,これはそう簡単な問題ではない。それは現在,規定されている診断可能年齢を超えることになるからである。つまり,2歳半〜3歳以降に自閉症と診断される可能性の非常に高い乳幼児を早期に見つけることであり,これは自閉症の診断とは異なる。このような将来の自閉症診断の可能性の高い乳幼児のことを自閉症ハイリスク乳幼児(infants at risk or high risk for autism)とこれから呼ぶことにする。「自閉症の症候群の発達的変化に対する我々の理解を深めるためには自閉症ハイリスク乳幼児を早期に発見し,その後の変化を行動面から詳細に観察していくことが最も有用である」とBuitelaar(1995)8)も述べている。本稿では自閉症児の早期発見,診断,治療につながる,自閉症ハイリスク乳幼児の特徴,その発見の仕方などについて今日までに明らかにされていることを中心として紹介したい。特に,自閉症児の示す障害の中で,近年,重視されるようになった「社会性の障害」に重点を置いて解説することにする。
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