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■老年痴呆dementia senilisの中に隠されたまま―1907年まで
老年痴呆dementia senilisという言葉が広く老年期の精神障害全体を意味していた長い時代のあと,19世紀が進むにつれて次第に慢性の知的機能低下状態に対して限定的に用いられるようになった経緯はすでに述べた。そして,老年痴呆の中から(あるいは老年痴呆を横に押しやる形で)血管性痴呆が取り出されるようになった歴史を前号で述べた。しかし,今日アルツハイマー型痴呆ないしアルツハイマー型老年痴呆と呼ばれている老年期の痴呆症(その早発型も晩発型も含めて)は,なお疾患概念として知られることなく,老年痴呆の中に埋まっていた。もちろんアルツハイマー型痴呆を彷彿させる個々の症例記載は以前からあった(例えばMaudsley18))。
19世紀後葉,老年痴呆において血管性痴呆症例が注目され,血管系の病変が重視される中で,老年痴呆をすべて動脈硬化性と考える傾向も生じたが,同時に,血管変化も出血,軟化もなくただ脳が萎縮しているだけの痴呆例の存在に気づかれ始めた。Furstner15)の報告にある萎縮のみの老年痴呆5例もアルツハイマー型痴呆であったろうと思われる。はっきりと血管性痴呆とは違うびまん性脳萎縮の老人脳があることをAlzheimer1)も1894年ドレスデン学会で発言した。そして,彼は1898年の論文2)でもそのことを述べ,神経細胞の変性が動脈硬化なしにみられた例を挙げた。この論文の題名を彼が「老年痴呆と,粥腫状血管病変を基盤とする脳疾患に関する新しい研究」とつけたことからわかるように,Alzheimerははっきりと血管性痴呆と変性型痴呆とを区別して並置したのである。
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