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■はじめに
身体活動や運動が身体病の一次および二次予防に効果的であるという科学的な証拠が1970年代以降に登場し始め,例えば冠動脈疾患,糖尿病,高血圧などの疾患の発生頻度を著しく軽減するという論文が相次いで発表された。
身体面への運動の効果に次いで,最近の10年間には,運動の精神面への効果や運動後の爽快感の意味するところを検証しようとする多くの試みが主に米国を中心になされてきた。この背景には,米国の全人口の10〜20%が軽度から中等度の抑うつ,不安,その他の感情障害に苦しんでおり,うつ病患者の15%ほどは自殺によって死亡し,年間およそ163億ドルをうつ病治療に要し,42億ドルの自殺関連費用を計上しているという事情がある43)。感情(気分)関連疾患の一次および二次予防に運動が有力な処方の1つとして浮上してきた背景には,このように運動を医療経済上の効率の面からとらえ直そうとする狙いもあるようである。
本論文ではこれまでの運動の主として気分・感情を中心とした精神面の効果の知見について以下のように展望したいと思う。
1.健常者のメンタルヘルス,特に不安や抑うつに対する運動の効果
2.運動が自己概念や人格に与える影響
3.不安や抑うつ症状を有する患者群に対する運動の効果
4.運動に伴う脳内の神経化学的変化
5.将来的な研究の展望
これらについて,肯定的見解のみならず否定的見解も含めてまとめて展望してみることにする。なお,運動をアメリカスポーツ医学協会(ACSM)の分類1)に基づいて,有酸素持久運動(ジョギング,水泳,歩行,自転車など),筋力耐久運動(ウエート・トレーニングなど),柔軟屈曲運動(柔軟体操など)の3種に区分するが,ほとんどの研究で有酸素運動が採用されているので,本論文では特記のないかぎり運動を有酸素運動として取り扱うことにする。
(注:歩行,ジョギング,自転車,水泳,エアロビクス・ダンスなどのように,必要な酸素が呼吸により十分摂取可能で,エネルギーを常に脂肪組織内の中性脂肪から補充でき,長く持続できる運動を有酸素運動という1)。)
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