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アルツハイマー型痴呆(ATDと略)の研究は神経病理学から始まり,今日では分子生物学,生化学などの広い分野にまたがって研究されているので,疾患の定義やその範囲について共通の認識が必要であるが,しばしばアルツハイマー病(ADと略)とアルツハイマー型老年痴呆(SDATと略)を区別していないことがあり,議論の際に混乱が生じることがある。両者の中核的な症例では臨床的にも神経病理学的にも隔たりがあるが,その境界となると必ずしも明瞭ではないのも事実である。同じことがSDATと多数の老年変化を伴う非痴呆症例との間においても言える。すなわち,脳にSDATに匹敵するほどのアミロイドβタンパク沈着(AmDと略;老人斑とほぼ同義)を伴うが,SDATと診断されるほどの痴呆に至っていない一群の症例がある。このような多数のAmDのある非痴呆症例群は欧米ではearly stage Alzheimer's disease(AD)27),mild AD14),pre-clinical AD4),あるいはvery mild AD22)のごとくアルツハイマー病の名を冠して呼ばれていることからもわかるように,ATDの範疇でとらえられている。これに対して,我が国ではこのようなグループを単にATDとすることには異論がある19)。このような一群の症例の存在は,生理的老化とSDATの関係についての問題提起であると考えて一連の検討を行い,痴呆が明らかでない場合でも,高齢者では軽度(初期段階)のSDATに匹敵するAmDを伴う場合があり,これが老年期精神病の1形態学的背景となる可能性を指摘した11)。ここでは視点を変えて,逆に老年期精神病と診断された症例群の臨床と病理の再検討を通してこれを検証した。また,このような検討がSDATの診断に寄与すると考えた。
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